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カンボジア通信 |
2005年11月4日 |
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22 ポイペトの市場とゲストハウス |
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タイの首都バンコクへ行くことになった。首都プノムペンから飛行機でひとっ飛びという手もあるが、せっかく時間があるのだから陸路で国境の町ポイペトまで行き、そこからタイへ入国することにした。旅行ガイドブックが神経を尖らせているポイペトという町に滞在してみたかったからだ。 『地球の歩き方 アンコール・ワットとカンボジア』(ダイヤモンド社)は、ポイペトを次のように紹介している。
「(ポイペトの)町なかは国境特有の混沌とした状態で、トラブルも多数報告されている。特に市場周辺は旅行者が興味半分に出歩ける地域ではない。国境通過する際、やむを得ず宿泊を必要とする場合は、シソポンか、タイ側のアランヤプラテートで宿泊することをすすめる。」
市場とは地元の人にとっては日常の場だ。それはポイペトの市場にも当てはまるはず。それでは、地元の人が日常的に足を運べるのに、旅行者は興味半分に出歩くことはできないと旅行ガイドブックが書くポイペトの市場とは、一体どんなところなのだろう。
プノムペンからポイペトまで行くには、大きく分けてふたつのルートがある。ひとつはトンレサープ湖の北側を走る国道6号線を北上し、アンコール遺跡群のお膝元の町シェムリアプを経由して行く「北ルート」。もうひとつは、トンレサープ湖の南を通る国道5号線を進み、カンボジア第二の都市バッタンバンを経由して行く「南ルート」だ。シェムリアプで知人と会う予定があったため、今回は「北ルート」を通って行くことにした。
事情により、シェムリアプからピックアップトラックを使ってポイペトを目指したため、シェムリアプを昼過ぎに出たピックアップが途中の乗り換え場所であるスヴァイシソポンに着いたのは夕方で、ポイペトに着いたころにはすっかり日が落ちて周囲は暗闇に包まれていた。スヴァイシソポンとポイペトの間では、闇のせいでカンボジアの田舎の景色を楽しむことはできなかったが、その代わりに蛍らしき昆虫の美しい灯りが疲れを癒してくれた。 余談だが、外国人旅行者はスウ゛ァイシソポンのことを「シソポン」と呼ぶが、カンボジア人は一般に「スウ゛ァイ(カンボジア語で「マンゴー」の意)」と呼ぶ。カンボジアには「コンポンスウ゛ァイ」「スウ゛ァイリエン」といったように「スウ゛ァイ」のつく地名が複数あるのだが、「スウ゛ァイ」と言えばスウ゛ァイシソポンのことを指す。
さて、ポイペトである。 「やむを得ず宿泊を必要とする場合は、シソポンか、タイ側のアランヤプラテートで宿泊することをすすめる。」 と書いているだけあって、『地球の歩き方』にはポイペトの宿情報は掲載されていない。ただし、ポイペト中心部の簡単な地図は載っており、それによると国道沿いに複数のゲストハウスやホテルがあることが確認できる。それだけあれば十分だ。あとはひとつずつ当たって行き、空き部屋を確認すればいい。 ポイペトの町の中心を通る国道は、幹線道路だけあって夜でも交通量が多い。物資を山積みにして運ぶトラック、バイクにサイドカーをつけたトゥクトゥクの変形版、モトドップ、乗り合いタクシー、一般の乗用車などが行き来する。その道沿いには商店やゲストハウス、ホテル、レストランなどが建ち並ぶ。降ろされた場所から国境ゲートのほうへ向かい、腹ごしらえをするための食堂とこの日の宿を探しながらとぼとぼと歩く。バックパックを背負って歩いているのに、モトドップ(バイクタクシー)から声をかけられることはほとんどない。この町で滞在する外国人旅行者の数が少ないことの証だろうか。 しばらく歩いたのだが、明らかに「それ」とわかる赤いゲストハウスやホテルは見かけるものの、そうでない宿はなかなか見つからない。今回は貴重品を背負っているのでトラブルは避けたい。「それ」っぽいところはやはりそれなりの危険性が伴う可能性が高い。もっとも、カンボジアのゲストハウスはほぼすべて「それ」であって「それ」ではないと言えるのかもしれないが。 国境ゲートが視界に入るところまで進んだところで、空いている食堂を見つけたのでそこで遅い夕食をとる。発汗による喉の渇きが強かったため、まずはビールを流し込むことにする。愛飲しているタイガーがなかったため、アンチャーを1本、それにクイティウという組み合わせだ。ポイペトではタイバーツが流通していることは知っていたが、それは補助的な存在なのかと思っていた。ところがだ。メニューの値段はすべてバーツ表示だ(あとで知ったのだがゲストハウス、ネット屋、市場の食堂、すべてバーツ表示だった)。国境で両替すればいいやと軽く考えていたため、バーツの持ち合わせは十分ではない。しかたがないので米ドルで払う。すると店員さんは頭の中にある為替レート変換機を使って手早く、かつ大雑把に計算し、バーツでおつりをくれる。ポイペトは完全にタイの経済圏に組み込まれていることを実感する。 少し飲み足りなかったので、飲みもの屋でビールを買ってからゲストハウスを探す。食堂から数分歩いたところにある飲み物屋でアンチャーを3本買うと 「シェムリアプから来たの?」 飲みもの屋のおばさんが声をかけてくる。マからもらったシェムリアプ土産のアンコールワットTシャツを着ていたからだろう。今さっきポイペトに着いたところだと告げる。 「シェムリアプからポイペトまでの道は悪くて大変でしょう。ピックアップに乗って来る人はみんなそんな(衣服が赤土の埃にまみれている)感じよ。ところで宿はもう見つけたのかい?」 「今、探しているところなんです」 「それじゃあ、私のゲストハウスに泊まっていったら?」 おばさんは左上を見上げて言う。その視線の先を追うと、そこには確かに小さなゲストハウスがあった。部屋を見せてもらうと、テレビと扇風機、1畳ほどの広さのシャワールーム(トイレつき)のあるシングルで1泊100バーツ(前払い)。悪くはない。疲れていたのでここに決める。部屋の壁に貼ってあるカンボジア語で書かれた注意書きを読むと、 「危険物を持ち込まないでください」 「部屋から出るときは電気を消してください」 といったどこでも見られる文章のなかに混じって 「18歳未満の売春婦を連れ込まないでください」 という文があった。
翌朝、ゲストハウスのおばさんに挨拶をし、問題の市場の場所を聞いてからその場を去る。市場はゲストハウスから歩いてすぐのところだ。ぱっと見たところ食品が中心の市場らしく、内部の野菜売り場の地面は土がむき出しになっていて、雨の後だったせいか少しぬかるんでいる。プノムペンにあるバンケンコン市場の食品売り場を細長くしたような感じだ。 トマト、ナス、ダイコン、ニンジン、タマネギ、ニンニク、ショウガ、各種ハーブ、カボチャ、空芯菜、ポロホック、卵、干し魚、バナナ、パイナップル、パパイヤなど、見慣れた食材が並ぶ。売り子さんに聞くとタイ産の野菜も多く扱っているという。いくつかの売り場で食材の写真を撮らせてもらう。ハーブ屋のおじさんは 「これは撮ったか? これも撮っていけ。次はこっちだ」 と気前がいい。プロホック売り場のそばにいたおじさんは、僕がカンボジア語ができるということを知ると、 「これは干し魚だ。お粥と一緒に食べたりするんだ。これはマム。淡水魚から作るんだよ。そっちはプロホック。知ってるかい? 臭いだろう」 と、一通り食材の説明をしてくれる。市場の人と話をしても、市場内をぐるっと見回しても、カンボジアでよく見られる市場という以外の印象は受けない。 市場の食堂で朝食を取ったあと、国道を挟んで反対側にある住宅地をぶらつく。ぱっと見はごくありふれた田舎町なのだが、それぞれの住宅を注意して観察していったところ、プノムペンの住宅にはほとんど見られない一つの特徴があることに気がついた。門を持つ家に限った特徴なのだが、プノムペンの住宅より門が高く、玄関前の空間を完全に外部と遮断するような造りになっているため、門を乗り越えて住宅の内部に侵入できないようになっているのだ。
「興味半分に出歩ける地域ではない」理由は、こういうところに潜んでいるのだろうか。
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井伊誠のブログ「カンボジア通信」はこちら>>> http://cambodia.blogtribe.org/ |
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